岡 一太: “岡山のエスペラント”

岡山のエスペラント

著者:岡 一太

発行:岡山文庫

初版:1983年11月20日

はじめに

 戦後には教科書にまでのったザメンホフとその人工国際補助語エスペラントのことが、いつのまにか消えてしまった。何故だろうか?、今ぐらいかれの「純粋な人間性と絶対的な民族間の正義と平等をねらう」という、深い思想性とその実現のための不撓不屈な業績が、高く評価されねばならぬ時代はない。またかれの弟子の一人が「愛は平和を生み、平和は人間性を保ち、人間性は最も高い理性である」と言っている。いずれも、すべての原点は「人間性」である。

 ユダヤ人のザメンホフが、幼い時からなめたいわれなき民族、言語の差別を撤廃しようと、一八八七年エスペラントを創ってから、もうすぐ百年となる。その一世紀の間、世界各国の最も人間的な人々が、このコトバで、争いなき平和な国と、そのレ対をめざし、波うちぎわに砂のお城をきずくような徒労を重ねてきた。日本でも例外ではない。岡山でも心やさしき人々が、このコトバと思想の宣伝・普及のため挺身してきた。しかも、特に岡山は日本のエスペラント運動の発祥地としての名誉をになう。そして栄光、挫折の歴史に、数多くの同志たちが、よろこび、悲しみ、たおれた。それらの人間的群像を掘り起こし、小さな紙牌に刻もうと言うのが、筆者の願いである。

 この本では、主として戦前の運動をかき、戦後はその任ではないので、省略した。諒とされたい。特殊の分野なので、文献・記録が乏しく、あるいは誤りが多々あると思う。お気付きの点は、筆者までご教示下されば幸甚である。なお文中すべて人名は敬称を省いた。お詫びしたい。特に老齢(八十歳)で取材意のままならず、多くの方々にご迷惑をかけ、なおかつ誤りを犯しているだろうことを歳に免じてお許し願いたい。

一九八三年八月十五日  岡 一太

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